4-1  道具としてのギター

「趣味のための道具というのは、一式揃えるのにどれくらいのお金がかかるのだろう」
ということを、学生時代に一度考えたことがある。学生時代は周りにいろんな趣味を持った友人がいたので、そういった情報を集めやすかった。(もちろん、極々一部のとても裕福な方の金銭感覚ではなく、極一般的な感覚での話として)
お金がかからない趣味としては、例えば「散歩」とか「立ち読み」。必要なのは、暇な時間くらいのもんだろう。
一方・高い方はといえば、例えばサーキットでのバイクレースとかに嵌ると、バイクの改造なんかまで手を染めてしまえば、100万円を軽く超えていく。
自分の学生時代の結論としては、ある趣味を本気でやろうと思ったら、大体30万だと思っていた。
ウィンドサーフィン、アクアラングといった海でのスポーツは大体それくらいで道具がそろう。山登りの装備はそこまで行かないが、本格的な山登りは「そこまで行って宿泊して」といったことを考慮すると金額はどんどん積算されて、やはり同じくらいか、それ以上になっていく。
パラグライダーも大体それくらいだ。自転車も機材に凝り始めたら上はきりがない。

さて、それではギターはどうだろう。
ギターはクラシックギターは上をみるとかなり高い。もちろん安くて使えるのは、10万以下で十分買える。しかしその上としては、コンサートで使うといったことになると、100万以上が相場になっているのではなかろうか。10万以上100万以下というのは、グレーゾーンでクラシックギターを本格的にやる人は、大体100万を超えるギターをもっているような感じを自分はもっている。
100万円・・・サラリーマンが趣味で使うにはすごい数字だ。しかし、バイオリンやピアノ、管楽器などと比べてみると、そうでもないのかもしれない。それに、その金額で買う人がいるからその値段がついているともいえる。そんな数字をみていると、
「なぜそんなにお金をだせるの?たかが楽器でしょ」
と聞いてみたいきがしてくる。特に楽器が趣味でない人は訊かずにはいられない気分になるのではなかろうか。答えはシンプルだ。
「その楽器でなくては、”その音”が出ないから。」  

ギターを趣味としてはじめる。もちろん最初は、とりあえず、”手に入る安いギター”で毎日練習する。(「最初から100万円」というリッチな方の話は除くとして)そうしているうちに、それなりの演奏ができるようになる。すると、先生や友達の音と自分のギターの音の違いも聞き分けられるようになる。そして「憧れの音」というのが自分の頭の中でイメージができてくる。そうなると、自分のギターも自分で選んでみたいと思う様になり、楽器店でギターを試奏するようになる。ある程度弾けるようになると試奏は本当に楽しい。
そして、運良く(運悪く?)自分の理想としてイメージしていた音に出会えてしまったりする。
『その理想(と思える)の音がでる楽器が、お金さえ出せば手に入る』
『お金さえ積めば、自分がいままでやってきた必死の練習の結果出せるようになった音が、いつでも好きなときに出せるようになる』
ということだ。その誘惑・・・。
自分は何人も、その誘惑におぼれてしまった人を知っている。だから、
「自分は欲望に弱い。かつ、裕福ではない。でもギターは大好き」
という人は、十分注意したほうがいい。

さて、以上はクラシックギター、つまりナイロン弦のギターの話だが、スチール弦の方ももちろん100万以上というすごいものもある。
自分は600万のマーチンD45(60年代製)が試奏されているのを生で聴いたことがある。確かにすごかった。古いレコードで「いい生ギターの音」といわれるそのまんまの音がしていた。
これも「あの音がほしい」と思っている人がいて、その音がそのままでてくる状況が眼前に展開されるというインパクトを持った瞬間が展開された結果として、その金額となっているのだろう。
でも、一般的なところではクラシックよりずっと良心的で30万出せばりっぱな一品が手に入る。これはスチール弦ギターの性質によると思う。
ひとつは、スチール弦の演奏者人口の方が、圧倒的に多いことにあろう。ボーカルの方も歌の伴奏用として購入することも一因だろう。そういった方の需要が本数として多いため、結果として良質かつ、安いギターが多くでてくることになり、単品の価格を引き下げているのだろう。
それと、スチール弦の方は、ギターの質というか種類が幅広い。音の種類がいろいろある。だから、誰が聴いてもいい音、というよりは、このギターはこの音楽に合う、といった評価の仕方がなされている。結果としてスチール弦のギターは「何本も持っている」といった人が現れることとなる。こういった方は、合計すると、100万を超えてしまって、ある意味、クラシックの方と大差ないのかもしれない。いずれにしろ、趣味とはいえ、いや、趣味として毎日使うものであればこそ、おいしいものをいただきたい。
ギターの音は納得したものがほしい。  

続きは7章で・・・・